はじめまして。パーソナルトレーニングジムBEYOND橋本店のトレーナー、津田です。今回は「糖質を食べるとなぜ太る人と太らない人がいるのか」をテーマに、科学的な根拠を交えて解説し、そのうえで具体的な対策を詳しくご紹介します。糖質(炭水化物)は、私たちの身体にとって重要なエネルギー源のひとつですが、「糖質=太る原因」と思われがちでもあります。実際は、糖質の量や質、個人の体質・生活習慣など、さまざまな要素が組み合わさって“太る・太らない”が決まります。
本記事では、国内外の公的機関が発行するガイドラインや、栄養学の分野で広く参照されている研究・論文などをもとに、できる限り科学的根拠を踏まえた情報をお届けします。読み終えた後には、自分の食生活やライフスタイルを振り返り、糖質と上手に付き合うためのヒントを見つけていただけることでしょう。
目次
三大栄養素とは、「炭水化物(糖質+食物繊維)」「タンパク質」「脂質」の3つを指します。アメリカの「2020-2025 Dietary Guidelines for Americans(米国食事摂取基準)」では、成人における炭水化物(糖質)摂取量の目安を、総エネルギー摂取量の45〜65%程度としています。日本の「日本人の食事摂取基準(2020年版)」でもおおむね同様の範囲が推奨されています。
参考:
炭水化物は、さらに「糖質」と「食物繊維」に分けられます。食物繊維は血糖値の急上昇を抑える役割を持ちますが、糖質は吸収されると血中のブドウ糖濃度(血糖値)を上げる働きがあります。糖質は脳や筋肉を動かすための主要なエネルギー源です。極端に糖質を制限すると、集中力の低下や疲労感が生じやすいという報告もあります(たとえば、*Gleesonらの研究など)。
糖質は決して悪者ではなく、適切に摂取すれば筋肉の活動や脳機能を維持するために欠かせない栄養素です。しかし、必要量を大幅に超えて摂取すれば、体内に余った分が脂肪組織に蓄積されやすくなるため、太るリスクを高めます。
糖質を摂取すると血糖値が上昇し、膵臓(すいぞう)から血糖値を下げるホルモンであるインスリンが分泌されます。インスリンは筋肉や肝臓にブドウ糖を取り込ませるだけでなく、脂肪細胞にエネルギーを貯蔵させる作用も持ちます(*Saltielらの研究)。このため、過剰な糖質摂取はインスリンの過剰分泌を招き、体脂肪蓄積を促進しやすいと考えられています。
食品ごとに、**GI(グリセミック指数)やGL(グリセミック負荷)**が異なります。GI値が高い食品(白米、白パン、砂糖など)は、血糖値を急激に上昇させるため、インスリンが大量に分泌されやすいです。また、同時に食べる量(グリセミック負荷)が多いと、血糖値の上がり幅がさらに大きくなり、脂肪がたまりやすくなります。
参考:
*Brand-MillerらのGIに関する研究(American Journal of Clinical Nutrition 2002)。*Harvard T.H. Chan School of Public Health - The Nutrition Source: Carbohydrates.ライフスタイルの変化と糖質過剰摂取
現代社会では、コンビニやファストフードなど、高糖質・高カロリーの食品が手軽に手に入ります。さらにオフィスワークやリモートワークの普及などにより、日常的に身体活動量が減っていることも、糖質過剰摂取が体脂肪増加に直結しやすい背景といえます。
実際に肥満の要因としては、糖質量だけでなく総カロリー過多・運動不足・睡眠不足など多角的に絡んでいますが、糖質を過剰に摂取すると血糖値スパイクが起こりやすく、太りやすい体質を作り出してしまうのです。
「同じ量の糖質を食べているのに、なぜ私は太るのに友人は太らないの?」と疑問を持つ方が多いかもしれません。以下に、糖質が体脂肪に変わりやすい人の主な特徴を挙げます。
インスリン抵抗性とは、体がインスリンの働きに鈍感になっている状態を指します。通常、インスリンが分泌されれば血糖値は効率よく下がりますが、インスリン抵抗性があると血糖値のコントロールが上手くいかず、更なるインスリン分泌が引き起こされます。結果として脂肪蓄積も促進されやすくなるのです。肥満気味の方、内臓脂肪が多い方、2型糖尿病のリスクがある方などはインスリン抵抗性が高いとされます。
筋肉はブドウ糖を取り込み、エネルギー源として利用する大切な器官です。運動不足や加齢などで筋肉量が低下すると、糖質の受け皿が減るため、摂取した糖質が余りやすく、脂肪として蓄積されやすくなります。定期的な筋力トレーニングはインスリン感受性を高め、太りにくい体づくりに貢献すると多くの研究が示しています。
1日のなかで、朝食を抜いて昼・夜にまとめて大量に糖質を摂取したり、夜遅くに高GI食品を食べたりすると、急激な血糖値上昇が起こりやすくなり、インスリンの過剰分泌が生じます。また、夜食は睡眠の質を下げる要因にもなり、ホルモンバランスが乱れてますます肥満を助長するリスクがあります。
慢性的なストレスや睡眠不足は、コルチゾールなどのストレスホルモンや、食欲を増進するグレリン、食欲を抑制するレプチンなど、さまざまなホルモンの分泌リズムを乱します。これにより、必要以上に糖質を欲しがる・食べ過ぎるといった悪循環が起こりやすくなるのです。
逆に「糖質をそこそこ摂っていても太らない」という人たちには、どのような共通点があるのでしょうか。
インスリン感受性が高い人は、少ないインスリン分泌でも血糖値をスムーズに下げることができます。摂取した糖質がエネルギーとして素早く利用されるため、脂肪として蓄積しにくいというわけです。適度な運動や筋力トレーニング、健康的な食生活によってインスリン感受性を高めている人は、糖質をうまく利用できる傾向があります。
運動量が多い人や筋肉量が多い人は、日常生活における総エネルギー消費量が高くなるため、摂取した糖質を効率よく燃焼できます。筋肉は「第二の心臓」とも呼ばれ、全身の代謝を上げる役割を担っています。スポーツを習慣的に行っている人や、日々の行動で階段を使う・歩く距離が長いなど、活動量の高い人は糖質を必要量以上に脂肪へ蓄積しにくい体質を保ちやすいのです。
糖質を摂る際にも、野菜やタンパク質、食物繊維を合わせてしっかり摂ることで、血糖値の急上昇を防いでいる人が多いです。たとえば、ご飯(白米)を単独で食べるのではなく、サラダ・卵・豆腐・魚や肉のタンパク質と一緒に食べることでGI値が全体として下がります。また、1日3食を規則正しく、あるいは1日4〜5食に小分けしている人も、血糖値スパイクが起こりにくいと言われています。
太りにくい人の中には、ストレスを上手にコントロールし、十分な睡眠時間を確保しているケースも多く見られます。ホルモンバランスが安定しているため、過剰に糖質を欲しがったり、インスリン抵抗性が高まったりするリスクが低いのです。特に7〜8時間程度の質の高い睡眠をとることで、レプチンとグレリンの分泌バランスが保たれ、食欲がコントロールされやすくなります。
糖質を食べて太るかどうかを左右する重要な概念として、ここまで何度か挙げている「インスリン感受性」。これは「インスリンがどれくらい効果的に働くか」を示す指標で、インスリン感受性が高いほど、摂取した糖質(ブドウ糖)をエネルギーとして利用しやすくなるため、余分な糖が脂肪に変換されにくくなります。
一方、「インスリン抵抗性」が高くなると、血糖値がなかなか下がらず、より多くのインスリンが分泌されることで脂肪細胞が糖を取り込みやすい環境が作られます。インスリン抵抗性は2型糖尿病やメタボリックシンドロームのリスクとも深く関連しており、食習慣・運動不足・遺伝要因・加齢・ストレスなど様々な因子で変動します。
短期的な体重減少が速い
糖質を制限すると、グリコーゲンや水分が減少するため、一時的に体重が急激に落ちる傾向が認められます。
血糖値の乱高下が緩和される
糖質の摂取量を抑えることでインスリンの過剰分泌が減り、血糖値が比較的安定しやすくなります。
インスリン抵抗性の改善
適度な糖質制限により、インスリン抵抗性が改善するケースも報告されています。
エネルギー不足と疲労感
糖質は脳や筋肉にとって主要なエネルギー源であるため、極端な糖質カットは疲労感や集中力の低下、トレーニングパフォーマンスの低下につながる可能性があります。
栄養バランスの乱れ
炭水化物に含まれるビタミン、ミネラル、食物繊維などを同時に制限してしまうと、便秘や栄養欠乏を招きやすくなります。
リバウンドリスク
糖質を極端に制限して減量に成功しても、もとの食事に戻すと体重が急激に戻る「リバウンド」が起こりやすいとされています。
2021年に「Nutrients」に掲載されたレビュー研究では、低糖質ダイエットは短期的な減量効果は認められるものの、長期的には中程度の炭水化物摂取量(特に全粒穀物など質の良い炭水化物)を中心とした食生活が、心血管疾患や代謝性疾患リスクを低減するうえで最適である可能性が示唆されています。
つまり、極端に糖質をカットするのではなく、質の良い糖質を適量に保つアプローチがより健康的で、リバウンドも防ぎやすいと考えられます。
ここからは、糖質を摂取しても太りにくい体を作るための、具体的なアプローチをご紹介します。
低GI食品・低GL食品の活用
玄米、全粒粉パン、オートミール、豆類、野菜、果物など、食物繊維が豊富で血糖値上昇が緩やかな食品を主食やおやつに取り入れる。
食物繊維とタンパク質の先行摂取
食事の最初に野菜や汁物、タンパク質源を食べておくと、血糖値の急激な上昇が抑えられます。これは「食べる順番ダイエット」としても知られ、科学的にも一定の効果が確認されています。
こまめに食事を摂る(小分け食)
極端な空腹時間を避けることで、血糖値の乱高下が起きにくくなり、ドカ食いや夜食を減らせます。生活リズムに合わせて、1日3食を基本としながら、間食に低GI食品を取り入れるのも一つの方法です。
砂糖や精製された小麦粉の摂取を控える
清涼飲料水や甘いお菓子、白パン・うどんなどは血糖値を急上昇させやすいので、できる範囲で頻度や量を減らす工夫をしましょう。
筋トレで筋肉量を増やす
スクワット、ベンチプレス、デッドリフトなど、大筋群を中心にしたトレーニングを週2〜3回行うことで筋肉量が増え、基礎代謝やインスリン感受性が高まります。
有酸素運動を組み合わせる
ウォーキングやジョギング、サイクリングなどの有酸素運動は、心肺機能向上と脂肪燃焼に効果的です。また、軽度〜中程度の有酸素運動はインスリン抵抗性の改善にも寄与する研究があります。
日常生活での活動量を意識する
エスカレーターではなく階段を使う、一駅分歩くなど、「NEAT(Non-Exercise Activity Thermogenesis:非運動性熱産生)」を増やす工夫が大切です。NEATを意識することで総消費カロリーが上がり、糖質をエネルギーとして使いやすくなります。
十分な睡眠を確保する
1日あたり7時間以上の睡眠が推奨されており、睡眠不足はインスリン抵抗性や食欲ホルモンの乱れを引き起こしやすいとされています。早寝早起きを心がけ、就寝前のスマホやPCの使用を控えることで睡眠の質を高めましょう。
ストレス解消法を見つける
ストレスによる過食や甘いものへの依存を防ぐために、趣味や軽い運動、ヨガや瞑想などを取り入れ、コルチゾールの分泌過剰を抑制することが重要です。
規則正しい食事・生活リズム
朝起きたら朝食を摂る、決まった時間に昼食を摂るなど、規則正しく食事をすることで血糖値コントロールが安定しやすくなります。週末に大きく生活リズムを崩さないように注意しましょう。
プロテイン・EAA・BCAA
運動後にタンパク質や必須アミノ酸(EAA)、分岐鎖アミノ酸(BCAA)を補給することで筋肉の合成を促進し、インスリン感受性を高める効果が期待されます。
食物繊維サプリ
野菜や果物、豆類の摂取量が不足している場合、サイリウムハスクや難消化性デキストリンなどのサプリで補ってもよいでしょう。ただし、過剰摂取はお腹の不調を招く可能性があるため注意が必要です。
ビタミン・ミネラル系サプリ
マグネシウムやビタミンDなどはインスリン感受性や骨格筋機能にも寄与するとされています。バランスの悪い食事を補う程度に活用し、まずは食品から摂るのが理想的です。
本記事では、糖質を食べて太る人、太らない人の違いと、そのメカニズムを科学的根拠に基づいて解説しました。結論としては、「糖質がすべての肥満原因」というわけではなく、インスリン感受性の違いや生活習慣全体が大きく影響しています。また、極端な糖質制限は短期的には体重が減るものの、長期的なリバウンドや栄養バランスの乱れ、健康リスクの増加を招く可能性も指摘されています。
糖質は脳と筋肉にとって重要なエネルギー源
完全排除ではなく、質の良い炭水化物を適量取り入れるのが基本方針。
インスリン感受性を上げることがカギ
定期的な筋トレ・有酸素運動、十分な睡眠、ストレスマネジメントが有効。
GI値・GL値の考え方を活用
玄米や全粒粉などの低GI食品を主食に選び、血糖値スパイクを抑える食べ方を心がける。
食べる順番や間食の取り方に工夫を
野菜やタンパク質を先行摂取し、ドカ食いや夜食を避け、食事のリズムを整える。
科学的に見ても極端な糖質制限はリスクあり
短期的な減量効果があっても、長期的にはリバウンドや健康リスク増大のおそれがある。
生活習慣の見直しこそが最強の対策
日常的な活動量の確保、ストレス解消法の習得、睡眠の確保など多面的な改善が重要。
もし「糖質をうまくコントロールしたい」「健康的に体重を落とし、リバウンドを防ぎたい」とお考えの方は、ぜひこの記事を参考に、日常生活に小さな変化を取り入れてみてください。私たちパーソナルトレーニングジムBEYOND橋本店では、一人ひとりのライフスタイルや体質に合わせた運動プログラムや栄養アドバイスを行っています。糖質との付き合い方から生活リズムの改善までトータルでサポートしますので、興味のある方はお気軽にお問い合わせください。
糖質は決して“悪”ではなく、私たちにとって欠かせないエネルギー源です。 カギとなるのは、過剰摂取を防ぎつつ必要量を確保し、インスリン感受性を高めるライフスタイルを築くこと。ぜひ本記事を参考に、ご自身の食事・運動・生活リズムを見直してみてはいかがでしょうか。
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